映画レビュー「八甲田山」白い地獄、直視するのもしんどい史実を見届けよ

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メリークリスマス。これを書いているのは12月24日です。

この日、ケーキを買ってきました。あとスーパーのお寿司。

ちょっと贅沢なクリスマスイブに彼女が映画を見ようと。

 

そういって取り出したディスクがこれ。

 

 

知ってますか、皆さん。

「八甲田山」という映画を。そこで起きた地獄を。それが史実であることを。

 

 

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映画「八甲田山」の概要

 

 

簡単に全体の概要

まずもってこの映画は、実際に起きた出来事をモデルにした話であると最初に覚えていて欲しいです。

で、簡単な概要を。

『八甲田山』(はっこうださん)は、新田次郎の小説「八甲田山死の彷徨」を原作とする日本映画。
1902年(明治35年)に青森の連隊が雪中行軍の演習中に遭難し、210名中199名が死亡した事件(八甲田雪中行軍遭難事件)を題材に、極限状態での組織と人間のあり方を問いかけた作品である。配給収入は25億900万円で、1977年の日本映画第1位を記録した[1]。高倉健、北大路欣也主演。北大路の台詞「天は我々を見放した」は当時の流行語になった。

ということで、実際に起きた遭難事件をモデルとした小説があり、それを下敷きに制作された映画となっている。

この事件、筆者は事前に知っていたのだが内容はとても衝撃的なものである。それは後ほど。

 

主演

 

主演は高倉健、北大路欣也という豪華メンツ。この二人の若い頃がマジでかっこいい。

(C)橋本プロ/東宝映画/シナノ企画

 

かっこいいなあ。

特筆すべきは、北大路欣也さんです。

 


(C)橋本プロ/東宝映画/シナノ企画

 

いやまって美青年過ぎません????

自分は年代的に若い頃の北大路欣也さんをほとんど知らなかったんですがこれはかっこよすぎる。

 

あらすじ

 

で、簡単にあらすじを説明すると。

時代は1901年。

日露戦争がほぼ避けられないような情勢下において、極寒値での戦闘に慣れているロシア軍に対して日本はその経験が足りないと考えた日本軍は、青森にある八甲田山を厳冬期に行軍する訓練を発案する。
と同時にこれは戦時中の物資輸送経路の調査や極寒装備の実用性調査を兼ねたものとなっていた。

この「雪中行軍演習」に参加するよう言われた部隊が二つ。
それが徳島大尉(高倉健)の所属する弘前歩兵第三十一連隊と、神田大尉(北大路欣也)の所属する青森歩兵第五連隊だった。

両隊の上官は「八甲田山ですれ違うようにしよう」と口約束をするが、この約束により両隊はとんでもない日程で行軍予定を組むことになってしまう。さらに青森五連隊は上官のエゴも加わり、雪中行軍に不向きな大規模での行軍に。

徳島大尉と神田大尉は勉強会を開き交流を重ね、
「次に会うときは雪の八甲田山で」
と約束するが、果たして両隊は無事に雪中行軍を遂行できるのだろうか?

というあらすじ。これは筆者が自分で上手いことまとめたあらすじです。

一応最後を疑問形にしたが、この疑問形はほとんど意味が無いんですよね。

なぜならば、この八甲田山雪中行軍はあまりにも有名すぎる、近代の登山史における世界最大級の山岳遭難事故だからです。

 

※ここから先は一度映画を見てから読んで欲しいところではあります。
 もちろん読んでから初見でも面白くなるよう頑張りますが、見てみたいという方はここで引き返してね!

 

史実が鬱展開

 

従ってこの映画は「無事に生還できるのだろうか」とドキドキ見るものではない。

極寒の地獄で人がどう死んでいくかを見届ける、そんな映画なのだ。だってモデルとなった事件がとんでもなく悲惨なのだから。

 

この雪中行軍の結果を簡単に書いてしまえば、

・徳島大尉(高倉健)率いる弘前第31連隊38名は、途中負傷により帰還した1名を除いて全員が無事に敢行。
・神田大尉(北大路欣也)率いる青森歩兵第五連隊はほぼ壊滅。
 210名の中で生還したのはわずか11名、その中には四肢切断で危篤まで陥ったものもいた。生存率5.2%という数字が過酷さを物語っている。

という、まさしく大惨事だったわけです。これを映画で描くのだから、そりゃキツい映画になるに決まっている。

 

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見所を紹介する

 

ここからはこれだけキツい映画、なんで見るべきなのかってのを紹介していきたいと思います。

人の死に様がドラマチックじゃない

 

この映画の見所というか、後半ほぼ全部なんですけどね。人がバタバタと死んでいきます。

この映画、W主演という形で二つの部隊が描かれてるんです。けどもさっき書いたように弘前組はほぼ無傷です。いや弘前組だって滅茶苦茶過酷な行軍をしているんですよ。それもしっかり描かれています。

ただそれを踏まえても、生存率5%という地獄絵図になってしまった青森組の様子はキツすぎる。

とにかく人が死んでいきます。続々と死んでいきます。

そこには、ドラマなんて無いんです。

この写真、撮影現場ではありません。実際に発見された凍死体です。

この現場は、スコップを放棄したため雪壕が掘れずにみんなで集まって寒さを耐えようとした結果こうなりました。

周囲に倒れているのは力尽きて倒れた人、中心付近の人は立ったまま亡くなったのです。

 

このシーンが、映画内で描かれています。

そこにはドラマなんて欠片もありません。ただただ、力尽きたものから倒れていくのです。

 

あるいは道中で無理矢理崖を登るしか無くなってしまったシーン。

豪雪の中で崖を登るのは非常に危険です。しかも極限まで体力を消耗している状態。

当然ながら、落ちます。そのまま力尽きます。あるいは上から落ちた人に巻き込まれて死んでいきます。

 

他にも矛盾脱衣で雪に飛び込み死ぬ者、発狂して川に飛び込む者と地獄の光景はずっと続きます。

 

この映画、死ぬ瞬間にはドラマなんてないってことを見せ付けてくれます。淡々と人が死んでいく。

そこに私は生々しさ、冬の恐ろしさを見出し、キツいのに一切目が離せなくなってしまったのです。

 

撮影が命がけ、だから目が離せない

 

この映画の撮影は、過酷な環境で行われました。

実際に八甲田山で撮影が行われ、昼間でマイナス15℃、夜間撮影ではマイナス20℃以下だったと言われています。

この映画を象徴するシーンの一つに、

「矛盾脱衣によりふんどし一丁で雪に飛び込み凍死する」

というシーンがあります。これを演じた方は、そのカットの撮影後2日間衰弱しきって起きれなかったと。

高倉健さんも撮影中に軽度の凍傷になる、現地で応募した多数のエキストラが過酷さから逃げ出し半分以下になるというとんでもない環境での撮影。

だから画面上に映る寒さに対する苦悶の表情は演技ではないんです。本当に苦しいんです。

その空気は、狂気は間違いなくこの映画を彩る要素だと思います。

 

友情、忍耐、敗北のバディものである

 

そして個人的に一番惹かれたのが、この映画は友情ものであるという観点です。

映画の冒頭、上層部に自己責任で無茶振りを喰らう徳島大尉と神田大尉。

この二人は互いの立場をおもんばかり、友情で結ばれていきます。

そもそも上層部に対しても、「八甲田山で会うと約束したから行くのです」と発言するほどにこの二人は短い期間ながら厚い友情を持っています。

そして強靱な精神力でもって冬の白い地獄に二人はそれぞれ挑むと。

 

結果として、神田大尉は亡くなります。

 

映画の中での流れとしては、

・徳島大尉は神田大尉と再会、その場で神田大尉は死亡。
・だが実際には神田大尉の遺体は一日前に収容されていた。
・その事実を知り、改めて遺体慰安所で神田と徳島は再会を果たす。

という流れになっています。

これを徳島大尉の幻覚と言ってしまえばそれまでかもしれません。けれども私には、死してなお友との約束を守るべく神田大尉が待ってたんだと受け取っています。

その思いを徳島大尉も受け取ったからこそ、神田の妻はつ子から再会を楽しみにしていたと聞いたときに

「会いました。間違いなく、自分は賽の河原で会いました」

と言い切ったのだと思います。

そのまま泣き崩れる徳島大尉の姿が、あまりにも辛い。

 

史実にはこういった交友関係は全くありません。そもそも両部隊は別々に雪中行軍の計画を立てており、日程が重なったのは全くの偶然だったと。

 

この作品がただのノンフィクションに終わらなかったのは、友情ものとして大胆な改変を取り入れたこと。

そして友情と忍耐だけではどうにもならないという残酷な展開だったことだと思っています。

 

青森組と弘前組の対比、「天は我々を見放した」の意味

 

ここから先はまた史実に基づいたお話。

雪中行軍の結果が明暗くっきりと分かれた両隊。

その分かれ目となった原因は多数あります。

少数精鋭で挑み、現地民の意見を取り入れ案内人を採用し、万端の事前準備が出来た弘前組。

地元民の制止や案内の提案を却下し、楽観的で備えが浅く、大所帯がゆえに指揮系統が混乱し崩壊を招いた青森組。

 

この両隊の行動が交互に映るたび、青森組の地獄が「人災」であったことが如実になっていきます。

特に青森組のカギを握ったのが、随行した大隊本部の人員であり神田大尉の上官でもある山口少佐。

彼のエゴ、独断による指示が青森組を混乱させ崩壊に導く様が克明に描かれるとともに、上司の無茶ぶりと現実の板挟みに遭いながら最後まで状況を打開できなかった神田大尉の苦しさも描写されています。

神田大尉の終着点ともいえる名台詞が

「天は我々を見放した」

だと個人的には思っています。この言葉、公開当時大流行したそうですが個人的にはあまりにも重い一言だと解釈しています。

 

そもそもとして、天候が悪いことは出発前に現地住民から注意されていたこと。

大所帯では難易度が飛躍的に上がるのに結果として210人という人数を抱えたこと。

引き返すタイミングはいくつもあったのに強行したこと。

これらは全て神田大尉ではなく山口少佐による判断です。

上司の意見を蹴ることが出来なかった彼は、天に頼るほか無く、天が助けてくれるほど冬の八甲田山は甘くなかった。

神田大尉の準備にかけた労力は天に祈るような楽観的なものでは無かった。しかし彼の努力は上官によって全てかき消され、天に祈るしか無い状況まで追い込まれた。そう、人災なのです。

 

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視聴方法が円盤しかない

 

この映画、あまりにも凄まじいなと思ったのですがなんとサブスク系のサービスではどの会社も配信していません、なんともったいない。

見る手段としては円盤を手に入れる、レンタルで借りるほか無いです。

 

そんな八甲田山、なんと4Kリマスターされブルーレイで発売されてます。それも2019年という最近に。

 

 

このディスクを是非買って欲しい。

くっきりと鮮やかにリマスターされ、より生々しく地獄を見ることが出来ます。

 

特典映像も豪華

 

このディスクに収録されている特典がまた豪華でして。

・撮影現場の写真がたくさん。かっこいい小道具から雪壕シーンの撮影手法、オフショットが盛りだくさん。
 正直これだけでも4000円の価値がある。
・八甲田山4Kリマスタードキュメンタリーが収録。どうやって綺麗に作り直されているのか、これだけで一番組分あります。というのも実際に日本映画チャンネルによって制作された番組が丸々特典として収録されているから。なんて豪華な。ナレーションは水樹奈々さん。可愛い。

ということで、本編のみならず豪勢な特典付き、これは本当に見て欲しい。映画好きな人なら絶対刺さるから。

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